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金融、個人営業、退社時24歳、男性

私の勤めていた企業は地元では有名な金融機関で、「残業は36協定を順守している為年間360時間を超えることはない」という説明を受けて安心しておりました。
確かに、ひと月の残業時間が30時間を超えることはありません。しかしそれは「形式上」の話でありまして、実際は少なくともその倍は残業しておりました。
36協定を逆手に取り、経費削減をしていたのです。これからそのシステムを説明致します。
まずわが社は徹底して上司から「残業を減らせる努力をしろ」という指導を受けます。残業時間が増えるのは自己責任であり、残業時間がオーバーしたら直属の上司の評価が大きく下がるという前提がまずあるのです。

 
しかしだからといって仕事の量が減るということは一切ありません。凄まじく手際のよい数名を除き、まともにやっていたら少々の残業ではとても終わらない仕事量を課せられます。そこで社員は皆「実際よりも残業時間を少なくする努力」を「自発的に」行うほかなくなります。上司の評価が下がるということは自分自身の評価が下がるに違いない上、「仕事が終わらないのは手際が悪いせいだ」ということでまるで給料泥棒をしているかのような言われようをするからです。

 

私の会社はパソコンを付けた時間が出勤時間、パソコンを切った時間が退勤時間となっておりました。そこで朝早く出勤したらまずパソコンを使わないでできる業務から取り掛かり出勤時間を遅くします。朝8時から30分会議が始まり、上司から営業実績に対する叱責を受けるのが朝のスタートです。なかなか仕事時間でストレスな時間ですが、この時間パソコンはまだ起動していない為私は出勤していないことになります。このストレスタイムが1円にもなっていないと思うと辛いものがありました。
そして会議後ようやくパソコンを起動し私はようやく形式上出勤したことになります。パソコンを使わないとタッチできない業務も多くありますので必死で片付けますが、外回りもしなくてはなりません。効率的に推し進める為に昼食を食べる時間などありません。常に机やロッカーにはカロリーメイトを忍ばせておりました。早く必要な業務を済ませて帰る為ではありません。はやく残業時間を終わらせる為です。

 

外回りが夕方に終わり営業店にり事務仕事に取り掛かります。まずはやはりパソコンを使用する業務から。許される残業時間は月当たり30時間なので定時後1時間半までになんとかしてパソコンを使う業務を終わらせます。ピンチの時は残業時間中に休憩を入れたという設定にし少々時間を稼ぎます。そして形式上の残業を終わらせられたらようやく一安心です。それからパソコンを使用しない事務作業、書類整理や実績集計などに取り掛かります。まだまだすべきことは盛り沢山です。
と、これが1日の流れとなります。例えば朝8時に出勤し夜9時に退社したとします。元来8時間労働という設定なので実際の残業時間は5時間となるはずです(昼休みはない為)。しかし残業時間は1.5時間となります。

 

ここでキーとなるのは上司が決して「早くパソコンを切れ」などということを言わないという点です。ただ36協定を遵守する、年間360時間以上の残業時間を超えたら営業店にとても重いペナルティが課せられるという事実を重く伝え、社員が「自主的に」残業時間を減らす努力をしているので上の人間に責任は何もないというスタンスなのです。よって会社が労働基準法等々に引っかかることはありません。それどころか36協定を守っているということでプラスの評価を得ることができますし、新入社員募集の際データとして少ない残業時間はPRになるでしょう。

 

更に、会社としてはこれが大きなメリットとなるでしょうが、残業代を一人当たり年間最大360時間分しか支払いしないで良いのです。残業にかかるコストを半分以下に抑えることができるのです。社員としてはただ働きの時間が増加する為当然不満は募りますが、出世の道が絶たれたらたまらないし、営業店にいる上司たちもその状況は一緒であり上司が耐えている以上下っ端が反発する分けにはいきません。あまり経営が上手くいっていないということは皆分かっていたので、この件については言ってはいけないという暗黙の了解がありました。
このように、会社として非常にテクニカルに従順に正当な対価を得ず働く人間を作り上げているのです。
そもそも36協定とは労働者の生活を守るために作られたものでありますが、これがを逆手に取られ苦労している労働者が実際に多く存在するのです。こんな協定なければいいのに、と何度思ったことでしょう。

 

割と少ない残業時間が提示してある会社でも、実際に働いている時間はどの程度なのか、新卒や転職を考える方々はよく調べなくてはなりません。会社の上の方に聞いても現実は見えてきません。現場で働いている方に実際に会い話を聞き、リアルな労働環境の話を聞きましょう。思わぬ落とし穴があるかもしれませんし、逆に不安を感じていた企業に思わぬメリットがあるかもしれません。