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私は今、地元の美容室で店長をしています。ここで働き始めたきっかけは、以前働いてた美容室で、今の美容室のオーナーと同僚として出会い、彼が前の美容室を辞めて独立する時に声をかけてもらった事です。

以前は同じ美容師という立場で、同僚でしたが、今は彼はマネージメントに徹し、私は彼の下で美容師として働かせてもらっています。私は現在店長として忙しくも充実した日々を送っていますが、以前はブラック企業が運営する全国チェーン系の美容室で長年働いていました。

 

美容専門学校を卒業後、すぐに妊娠してしまった私は、美容師の免許を持ちながらも就職はせず、結婚し出産しました。その後訳あって旦那とは離婚し、実家に戻り家族と暮らしています。

子供が2歳になった頃にパートとして前の美容室に採用してもらい、働き始めました。

子供がいることで美容師として働くの無理ではないか、ここの面接がダメならスーパーで働こうと思っていた私は自分の夢を叶えることができて舞い上がっていました。

 

しかし、働いてすぐに完全なるブラック企業であることが発覚しました。具体的に言うと、物販が問題でした。自社ブランドのシャンプー・トリートメント・クリームなどのヘアケア用品から、提携している有名メーカーの商品までその美容室ではさまざまな美容用品を扱っているのですが、そこで働く美容師には販売ノルマが課せられていました。

今時ドラッグストアのヘアケア剤も豊富で、安価で品質の良いものがいつでも気軽に買える時代です。美容室で売られている知名度のないばかりか、高価な商品は簡単には売れません。ですが、正社員だけでなくパートスタッフにすら1ヶ月のノルマがありました。

ノルマの金額は時給によってかわります。私の時給は働き始めた時は700円で、月の販売ノルマは5000円でした。これだと商品が2つほど売れればノルマ達成なので、苦労することなく、ノルマをクリアする事ができていました。ですが時給が上がれば上がるほど、ノルマは厳しくなり、働いて3年が経つ頃には時給850円で、月30000円のノルマがありました。会社ではスタッフのモチベーションをあげるため、お客様に良質の商品を提供し、満足度を上げるためだと言っていましたが、私を含む従業員全員の不満は募るばかりでした。

物販ノルマが原因で辞めたスタッフも大勢います。ですが何よりも美容師の仕事をできている事に誇りを持ち、会社に感謝すらしていた私は辞める事ができないまま、そのブラック企業で5年以上パートを続けました。

 

5年経ったときの事です。店長に呼び出され、長い間頑張ってくれていてありがとう。ぜひ社員になってもらえないか、と声をかけてもらいました。私は何も考えずにその申し出を受けてしまいました。

今までの自分の功績が認められたのだと嬉しくて舞い上がっていたのだと思います。ですが、社員になった最初の月から、給与は多少上がりましたが、ノルマは2倍以上に上がりました。

これまでは、友達やお客さんへの営業に力を入れる事でほとんどの月のノルマを達成して来たので、自腹を切ることはほとんどありませんでしたが、社員になってからは毎月自分でヘアケア商品を購入しなくてはいけませんでした。

 

一緒に住んでいる家族はその異変を感じ取ったのでしょう。それまで心配すると思い一度も相談してこなかったのに、「もしかしてノルマが厳しいんじゃないの?シャンプーもトリートメントも最近買いすぎよ!大丈夫なの?」と不安がっているようでした。私自身、多くない給与の中から必要ではないと感じている量のヘアケア剤を買わなくてはいけない事に対して、フェアではないなと思っていました。

それまでも、友達に美容室に来てもらう事はよくありましたが、商品購入を勧めるのは気が引けました。ですが、社員になってしばらくしてからは、頼るしかないと思うようになり、来てくれた友達に「このシャンプー超いいから使ってよ!」と強引に売るような事をしてしまい、あとから自己嫌悪に陥る日もありました。

社員になってからは物販以外の面でも、カット人数のノルマも出てきて、これまで以上に営業をしなくてはいけませんでした。当時の店長には「枕営業でも何しても文句言わないからお客さんと仲良くなって、常連になってもらえ!美容師はキャバ嬢・ホストと一緒でサービス業だぞ」と言われる事もありました。

プライベートな時間も友達のようなふりをしてお客さんと会う事が多くなりました。特に友達とも思っていない、ただのお客さんとカフェでご飯を食べている時に急に私何してるんだろうと思いましたが、また嘘の笑顔を作って、「次いつ髪切る?てか今度はパーマとカラーしてイメージ変えようよ」と言っていました。

あの頃の自分は本当に人間として最低でしたね。お客さんの顔がお金にしか見えていなかったのだと思います。自分はこんな事をするために美容師になったわけじゃないと思っていた頃、長年一緒に働いてきた今のオーナーの独立が決まり、私の毎日は変わりました。子供がいる兼業主婦の私1人の力では、今の充実した日々は送れなかったと思います。