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今から15、6年前のことです。

ちょうど30歳を目前ながらも、フリーター生活を送っていることに危機感を感じ、私は正社員となって、しっかりとした技術を身につけていこうと思い、それまでいた業務請負会社を辞め、正社員で採用されるべく、就職活動を始めました。

今まで工場勤務一本で働いていたので、その延長線上で主に製造業で仕事を探し、いちばんしっかりしたと思われた会社に入社を決めました。

その会社では金型のパーツを作っており、私は過去の経歴から、汎用フライス盤やボール盤などを使って金属を切削加工する部署に配属されました。

その部署の課長は、私より5つ年上で、その会社の経営者一族の一人でもあり、社長の息子である専務の弟でもありました。

はじめて出会ってから1週間の試用期間中の間は、非常に紳士的でフレンドリーに私に接し、私もすぐに打ち解けて会社近くの実家に親と同居して、親は自営業を営んでいたことなども気兼ねなくその課長に話しました。

そのとき私は、これで順調に正社員として歩んでゆけると考えていました。

しかしその淡い期待は、この課長によって見事に打ち砕かれたのでした…

 

 
試用期間を過ぎると、その課長の本性と配属された部署の現実を見せつけられることとなりました。

その部署には私の他、チーフと呼ばれる、課長と同年代の人と、創業時から社長と一緒についてきた年配の男性社員、そしてパートのおばさんの3人が同じ部署にいましたが、年配の男性社員とパートのおばさんは、些細なことばかりか、いいがかり的なことで課長からパワハラともいえる、激しい叱責をいつも受けていました。

課長は、彼の親と同じ年代のこの2人に対して、平然と暴言の数々を浴びせかけていました。

しかしチーフに対しては、どうやら一目置いているらしく、むしろ彼の側近として、部署内の人たちを監視する役割を与えているようでした。

部署内は、課長とチーフには誰も逆らえない、張り詰めた空気が漂い、そこはさながら恐怖政治そのものでした。

ただでさえプレッシャーに弱く、不器用で要領の悪い私は、なかなか仕事が予定通り終わらないばかりでなく、頻繁にミスを繰り返してばかりいました。

そんな私は当然、課長やチーフの標的になるばかりでなく、この部署のヒエラルキーの最下層に位置して、私生活への干渉や激しいパワハラを受けることになりました。

 
私がミスをしたとき、最初は課長やチーフからの罵倒だけだったのでしたが、後に「今度お前がまたミスをしたら…」という条件をつけるようになってきました。

彼らの言うことは絶対で、その条件に異議を唱えたものなら、激しい制裁を受けることは目に見えており、首を縦に振ることしかできませんでした。

試用期間中、彼らに気を許してあれこれ自分のことを話してしまい、仕事中の私の性格なども把握した結果、彼らは私のことを絶好のカモだと認識したようで、私には精度の出ない機材や測定具をあえて割り当てて、余計にミスをさせようとしていましたが、何も逆らえない状態でした。

彼らの期待通りに私はミスさせられ、そのためにマイカーを潰されたり、彼らの子供たちのためにゲーム機を買わされたり、挙句の果てにはボーナスを彼らが風俗店に行くために貢がされたりするなどの目に遭いました。

平日が完全に潰れてしまうため、労基署への相談は無理な状況でした。

明らかに犯罪行為でしたので、一度交番でお巡りさんに相談をして、後日、課長が任意で警察署に出頭しましたが、弁の立つ課長は、むしろ私に非があるように訴えてうまく逃げ切り、何事もなく戻ってきてしまいました。

それからはパワハラがさらにエスカレートしました。

警察にも労基署にも通報する気力を失うほど、この部署は、法の及ばない世界だということを分からされました。

私に会社を辞められると、悪行が外部に知られるのを恐れてか、私が辞めようと画策することを妨害し、辞める意思を片鱗でも見せようとすると、「励まし」という名目でさらに暴言も激しくなり、その他いろいろと脅かしてくるようになりました。

 
しかし、彼の兄である専務は、そのような状況をすでに把握していました。

課長は、専務には頭が上がらないらしく、いつものように専務からいろいろとダメ出しを食らっていました。

やるべきことをやらずに、下に対しては威張りくさっている弟を快く思っておらず、会社から追い出す機会を窺っていました。

私が入社してからおよそ1年半経って、課長は急にパワハラの手を緩め、ほどなくして退職しました。

退職後は、課長の影響下にあったチーフも後ろ盾を失ったために立場が弱くなり、それからのびのびと仕事ができるようになりました。

ところが、課長が辞めてからおよそ半年後、突然私の携帯に彼から電話がきました。

相変わらず高圧的な物言いで「もう帰ってきているんだろう?久々に飲もうぜ」と言ってきました。

ろくなことはないと思い、やんわり断ると彼は急に豹変し、「テメェのせいで…」と言いがかりをつけてきました。

そして最後に「今度お前のうちに乗り込むからな」と脅して彼は電話を切りました。

その翌日、私は専務に相談し、そこで私は驚愕の事実を知らされました。

入社後の私の一挙手一投足を見て、私のことを本気で操り甲斐のある奴だと思っており、搾取して支配して、兄から独立し見返すための足がかりにしようと画策するために、いろいろと私生活などを裏で探っていたそうです。

そして、私が仕事ができないことを餌に、親を脅して家族もろとも支配して、自営業の家を乗っ取る気だったようです。

私が専務に相談後、専務は弟である元課長に対し、「今後うちの社員と関わるな」と言い、関わろうとするものならそれなりの手段を講じることを伝えました。

それからようやく人間関係にも恵まれた平和な正社員生活を得られるようになりました。