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自分とブラック企業は一生縁がないもの、と私は思っていました。
テレビのニュースや特集番組で、その手の話を見聞きするたびに、
「なんてヒドい世の中になったんだろう。」と、そこ働く人たちのことをかわいそうに思っていました。
しかし、ブラック企業は大なり小なり、すぐ近くにあるものなのです。
そして「まさか」と思っていた私の身に、その災難は降りかかってきたのです。

 

私が働いていたブラック企業は、歯科です。
ごく普通の、どこにでもある、街の歯医者さんです。
患者数もそこそこ多く、従業員は、院長・正社員・パート含め10名。
特に経営難という訳でもありませんでした。
院長夫人と知り合いだった私は、彼女から
「受付の子が病気で急に辞めちゃったから困ってる。助けてほしい。」と言われて働き始めました。
ちょうど実家の父の世話でほとんど無職に近い状態でしたので、
その事情を知っている院長夫婦なら何でも相談できると思いましたし、
院長夫婦もまた、父のことを全面的にフォローしてくれる、と言ってくれたことが決め手でした。
すぐに、受付兼、治療コーディネーターの正社員として就職しました。
基本給は16万円(他につく手当は交通費のみです。)と、40歳を過ぎた私にとってはアルバイト程度の金額でしたが、
歯科業界で働くのは初めてだったので、それも仕方のないことだと納得していました。

 

入ってすぐに、理不尽な労働条件のオンパレードに怒りを覚える毎日となりました。
まず、有給はありません。
これに関しては、それまでフリーランスで仕事してきた、企業に勤めた経験のない私は
「中小企業ともいえない規模だから仕方ないのか」と思いました。
他に細かいことでは、週休2日制でもありません。
残業代もでません。残業代については、時間給であるはずのパートさんも出ないのです。
なのに、勤務時間を30分過ぎようが1時間過ぎようが、昼休憩も取れませんし、最後まで帰れないのです。
朝は掃除のために、就業時間の30分前に出勤する事を強要されていました。
もちろん、時間外手当はつきません。
一度、「掃除が足りていないからもう5分早く出てくるように。」と言われました。
さすがに私は「たかが5分ですが、これ以上早く来たくありません。」と主張しました。
その昼休み、院長夫人から呼び出しと説教が待っていました。
「なぜそんなことを言ったのか」という彼女の問いに、私は
「5分だろうが1分だろうが、残業代も時間外手当も出ていない今の状況では、とても受け入れられない。」
という趣旨の内容を丁寧に説明しました。
帰って来た答えはこうです。
「歯科業界では朝早く来て掃除をしたり、準備をしたりするのは当たり前のこと。
そうすることで医療人として成長していくことができる。
大きく成長している歯医者さんは、スタッフがみんなそうやって、
自分の時間を使って色んなことをやっていくことで成功している。」
というのです。
私には全く理解できませんでした。
私が歯科業界の人間ではなかったから理解できなかったのでしょうか?
もちろん、自主的に掃除をしたりすることは素晴らしいことだと思います。
しかし、そうではなくて、業務命令として掃除をさせるために早く出勤しろと言っているのに
なぜ時間外手当は出さなくて良い、と考えるのでしょうか?

 

院長夫婦のこの「成長するために」というタイトルは他にも様々な場面で使われていました。
例えば昼休みです。
衛生士たちは度々、『自主練習』することを強要されました。
練習する内容や順番、練習した成果をみるテストまで受けなければなりません。
これも「衛生士が成長するために必要なこと。彼女たちのためだから。」という名目のもとです。
例えば受付は、季節ごとに待合室の飾り付けを命じられました。
もちろん、勤務時間外で、です。自主的に変えていけ、という訳のわからない状態です。
全体、またはグループミーティングも昼休みか早朝です。
これも自主的に集まって話し合え、という命令の元で、です。
さらに、各部門でのマニュアル作りもありました。
もちろん、勤務時間内に作業する暇なんてありません。
患者様の対応でトイレに行く暇もない状態なのに!
言われた期日までにできていないと、院長夫婦から迫られます。
「できなかったのはなぜ?」「どうしてできなかったと思う?」「どうすればできるか考えて?」
当然、家に持ち帰って仕事です。

 

最も我慢できなかったのは、「スタッフは家族同然」と言いながら、全く配慮が無かった事です。
ある日、スタッフの一人が、子供さんが熱を出し休みたい、と連絡してきました。
その時の第1声は「おばあちゃんか誰かに頼めないの?」。
絶句しました。
院長夫婦も3人お子さんがいます。院長夫人は度々お子さんのことで仕事を休んでいるのに!
また、スタッフが体調が悪く、休ませてほしいと連絡してきても、許可しません。
院長曰く「とにかく病院行って、病名連絡して」。
病院からスタッフが連絡してくると「じゃ、午前中は休んで。昼イチでまた連絡して。」というのです。
このやりとりは夕方や終業まで繰り返され休みの許可もくれないのです!
治るものも治りません。
そのくせ、院長夫人が風邪気味だと、「体調悪そうだから今日は休ませた。」ですませるのです。

 

私の感覚が甘かったのでしょうか。
ちなみに、私が入社するきっかけになった、前の受付のスタッフは、毎日毎日
「成長するためだから。」と、色んな課題を押し付けられ
心の病気になって辞めたんだそうです。

私は、父が頭蓋骨骨折という大怪我で入院するのに休ませてもらえず、辞めました。